未明から降雪との予報で、予定をリスケすべきか否か迷った。けどリスケの日程もさほど候補があるわけではないし、雪もつもったわけでもなく、午後には天気も回復するようであったので、予定通り決行。せっかく池袋に行くなら、新宿で世界堂に寄りたい気持ちもあったけれど、迷って迷って断念。体力、精神、金銭、すべての余裕がなかった。電車では、図書館で借りた本を読んだ。仕事で必要な本で、自分の考え方とちょっと違いそうだなとはすに構えるところがあったけど、読んでみるとおもしろかった。あちこちのページに「そうそう、そう〜」があった。
目的のお店に中途半端に早く着いてしまいそうだったので、その前にコンビニでネットプリントを印刷しようとしたが、財布に小銭がなかった。くずすための買い物も躊躇するほど余裕がなく、これから行くお店で買い物をすることになるので、そのあとにしようとそのままお店へ向かった。案の定、中途半端に早く着いてしまった。それらしき場所はまだシャッターが閉まっている。地図上では近くに喫茶店などはなさそうで、コンビニでネットプリントを印刷しながら待つことにした。外はすっかり晴れ、すでに駅から歩いていたので、コンビニへの道のりはじわじわ暑かった。こうして書いていると「あれ」となるのだけど、ここでコンビニに向かっている私は小銭がないことをすっかり失念しており、結局お店で飴を買うことになる。
そうして念願のポポタムへ入店。念願のイ・キュテさん展を見る。
〈イ・キュテはいつも決まったモレスキンの手帳に日々スケッチをしています。作品集「Note, 2015 – 2023」は、タイトルどおり2015年から2023年までの手帳から抜粋したイラストをまとめたもの。ブックデザインも手帳のようにコンパクトなサイズです〉
Lee Kyutae イ・キュテ 作品集「Note, 2015 – 2023」ローンチ展 ブックギャラリーポポタム(Padograph)
日常のなかで手帳に記されたイラストの数々は、この紹介記事にもあるように圧倒的に〈日常の蓄積〉で、それは自分が書いている(書こうとしている)日記と通じるものがあるように思う。
イ・キュテさんはこれを作品として書いているのか、ご自身のための(という形容は抽象的だが)スケッチなのか、その境界はさほど明確ではないのか、それは私にはわからないけれど、こちらから見ればそれは十分ひとを引きつけるものになっており、今回本としてまとめたものも「作品集」と冠されている。
他方、私の日記はというと(特にここに書いている日記あるいは非公開で手元で書いている日記についていえば)基本的には自分のためのスケッチであり、それがひとをひきつけるものになっているとは思っていないし、ましてや作品として磨き上げ(ることができ)たものではない。それでも、自分が発した言葉を誰かとつながるためのものとするために、ネットの海にボトルメールとして流している。ネットプリントで公開したりZINEにしたりしているのも、流す「海」こそ違えど「ボトルメール」としての日記というところは共通している。
イ・キュテさんの作品を前に、そうして自分のことをいろいろ考えてしまった。なんでも自分に引きつけて考えてしまうのは世界が狭いとも思うし、イ・キュテさんの作品(性)と比較するような思考もおそれおおいのだけど。
作品展に話を戻すと、その日記をどう書くかがひとによって違うように、日常の一部をイラストで切り取るとしてどこをどう切り取るかも、どういう画材で描くかも、どういう色を使うかも、どのぐらい線を書き込むかも、きっと全然違うのだろう。そして私は、このイ・キュテさんの切り取り方も色づかいも本当に好きだなと思った。
今回は原画3点と複製画が展示されていたが、原画と複製画はやっぱり明らかに違う。原画を見て、作品集に収録された複製画を見て、また原画を見る。手帳に記された手帳は、誰かがひいた色鉛筆の線に鉛筆の粉っぽいものがのっていて、ボールペンと思しき線は少しくぼんでいる。それらの線はとても立体的で、誰かが描いた線としてそこにあって、ドットの集まりからなる複製画とは違う。いつか、イ・キュテさんの描いた線を、より多くの原画で見られることがあればいいなと思う。
アニメーション「here winter」は、どう形容していいのかわからない。絵の力と、それが動いたときの力にぐいぐいひきこまれて、ずっと見てしまいそうだった。
ポポタムの店内には、商業出版された本だけでなくいろんなZINEやリトルプレスと思しき冊子がところせましと置かれていた。いろいろ手に取ってみるのはとても楽しいけれど、中綴じで厚みがなく背表紙もないようなZINEだと、平置きされるかストッカーに差し込まれるなどして表紙が表に出ていないと、その存在が本棚に埋もれてしまうなと実感した。私自身、購入したZINEをどう収納するのがいいのか、最適解が出ないし。お店のなかをぐるぐる回るうちに、道中でかいた汗が冷えてきたようで手がかじかんできた。天気が回復したとはいえ、さすが雪が降った日だ。昨年お店のキャンペーンでご本をいただいたお礼を伝えつつ会計を済ませ、お店を出る。帰りの電車はさほど混んでいなくてよかった。