BS1スペシャルで放送されたドキュメンタリー『中絶をめぐる戦い〜アメリカ中間選挙 テキサス〜』、見てよかったけど、心情としては半べそかきながら見た。以下、印象に残ったところ。
■中間選挙で民主党候補者をテキサス州知事にするためには、選挙で勝たないといけない。そこで支持者(中絶する権利を取り戻したい人々)は票の掘り起こしを行う。けどこれがなかなか進まない。「有権者登録」をしないと投票できない仕組みになっていて、その有権者登録がなかなか伸びない。この活動のシビアさが非常にこう……つらかった。海の向こうの出来事という感じがまったくしなかった。
■望まない妊娠に直面してしまった女性を救う活動に携わり、民主党候補者を支持する女性が語っていた。権利を取り戻すためには選挙に勝たないといけないんだと。選挙に勝たないと、中絶の権利ばかりでなく投票の権利だって奪われていくかもしれないと。本当にそう。繰り返すけど、本当に我が身のことのようだった。日本だってそのうち「有権者登録」が必要になるかもしれない。そうなったら投票率はどこまで下がるんだろうか。
■その女性が、中絶を迫られるにはいろんな理由があって、それは外から見てもわからないんだという話を切々と、インタビュアーに対してしていた。
私は少し前に、第三者のDV加害について人と話す機会があったのだけど、そこで「DV加害者と被害者が婚姻関係にあるのならばもう解決してるってことでしょ」と言われたことが本当に許せなくて、今でも毎日思い出す。この番組の女性の話を、あいつに送りつけてやりたいと思った。というのは至って個人的な物思いではあるけれども、本当に加害/被害というのは推し量っても推し量りきれないものがある、という思いを新たにした。
■共和党支持差が現知事(共和党)の再選を目指して運動する様子もとりあげていた。その映像はポイントだけが抽出されているので議論のすべては把握できなかったが、番組上では「性的暴行などの加害を受けて望まない妊娠をした女性」に対する視点がゼロで、もう本当にちょっと……となった。
胎児の話はとにかく出てくる(運動している人は「我々が胎児の『声』にならなければ」とまで言う)。加害者を罰しようという話も出てくる。でも被害を受けた女性の話が出てこない。この空白はどういうことなんだ(繰り返すけど、番組がそこを取り上げてない可能性もあるとは思うが)(でももし言及されてたら取り上げるのではないかと思うが……)。
宗教上の教義として「人を殺してはいけない」のはわかった、でもある人の命を奪わないために、別の人の権利を奪うことが正当化される、というのを、あの共和党支持者の人たち(というか当該宗教の信者というべきか)はどう腹落ちさせているんだろう。どう解釈したら飲み込めるんだろう(当方は、当該宗教や聖書に関する知識がない)。
現知事は「(そういう女性に対して)生活支援などはするよ」みたいなことを言ってて、いやいやそういうことじゃねえし!!という。
■トランプが選任した最高裁判事がローウェイド裁判をくつがえした話を、トランプ大統領の功績だと語る様子、ほんときつい。
■望まない妊娠に直面する女性を支援する活動の一環で、中絶の代替手段として緊急避妊薬を配布していたけれども、高価で在庫を補充できないと(活動費は寄付でまかなわれている)。その値段は約50ドルで、日本円でおよそ7000円と言われていた。けど、そこで日本円に換算しても、テキサス(の貧困状態にある人)にとっての50ドルと、日本の7000円の価値が果たして同等なのか。あと、緊急避妊薬を日本でもさっさと市販しろと改めて思った。
■中絶禁止に反対するデモ(民主党支持)を、なんともいえない目で見る市民、という構図はなかなかにきつかった。
あの「目」は支持する見解の相違によるものであって、デモという行為自体に対するものではないと受け取ったが、どうだったのだろう。少なくとも日本では、見解の相異云々の前にデモ自体がくさされそう。
■「田舎では宗教や政治が密接で、何か言うことが明日からの生活に影響してしまうので、表立って(中絶禁止反対などを)表明できない」というような話をしていた人がいた。そういうことなんだろうな……でもきつい……
■中間選挙の結果は現知事(共和党)勝利という結果に。冒頭の女性は「この地域に住み続けるのがつらい。また戦っていくしかないけど、今はほとほと疲れきった」という、その「疲れきった」感が本当に……
今回番組で取り上げられていたテキサスでの中間選挙では、投票するのに有権者登録というのが必要なのだそうだ。そうするとやっぱり、登録を億劫に思う人が少なからずいる。それはそうだろう。
翻って日本はと考えたときに、日本だっていつ登録式になってもまったくおかしくないと思ったし。市民を投票に行かせたくない人たち、市民に寝ててほしい人たちが政権を担っている間に。そうなったら、日本の投票率はどこまで下がるんだろうか。
というようなことを、今日の選挙結果を見ながら考えたりもする。