クレジット

ある出版物に関する仕事をしたときに、奥付に名前を載せてもらえるのはありがたいと思ってた。わかりやすく「実績」として示せるから。
私は下請けで裏方仕事が多いので、めったに、というかほぼ、そういう仕事はない。書き物仕事は「○○編集部」名義に、校正仕事は「○○社」名義になる。

あるとき、校正を引き受けた出版物が誤記載で問題になった。それを知ったのは、その出版物が発売されてしばらくたってからのことで、ネットで偶然知った。いやな汗が一気にぶわーっと出た。
でも確認したら、自分は指摘するべきところはちゃんと指摘できていた。それが反映されなかった理由は定かではない。定かではないぐらい、私が関与したくても関与できない領域で起こったことだった。それがわかって汗はひとまずひいたけど、なんともいえずいやな気持ちになった。で、思った。「あの本にもし私の名前が、校正者として記載されてたら……」。肝が冷えた。
それ以来、成果物に自分の氏名が記載されることについては慎重になった。自分が最終確認できないものに氏名を載せることについて。もっとも、相変わらずその機会自体がほぼないけど。

それから数年経って、ある出版物の仕事をした。
信頼関係を築けていた(とこちらは思っている)担当者が受注した大きめの案件で、ならば一層役に立とうと、こちらも下請けながらそれなりにやる気でいた。
ところが、実際に稼働する担当者の仕事は、近年まれにみるいい加減なものだった。こちらを「都合のいい下請け」扱いしていたのだと受け取った(それにしても限界あるだろう、というひどさだった)。最後は1カ月ぐらい連絡が来ず、その間に案件が終わっていた。

連絡が来なかったのにどうして案件が終わっていたことがわかったかというと、ある晩突然、「あれ、明日印刷に出すんで、奥付にクレジット載せていいっすか?」という連絡が来たからだった。
掲載に関する不明瞭な説明と、掲載する場合のサンプルともに、「NGの場合はXX時(15時間後)までに連絡を。でないと印刷まわっちゃうんで」という旨の内容が、一応ですます調の文面で書かれていた。
ちなみにその案件は、フリーランスが数名関わっていたようで(そのこともまったく聞いていなかった)、掲載サンプルには男性らしき名前が50音順で並んだあと、最後に私の名前があった。
私がそのメールを見たのは、24時を回ってからだった。詳細を質問をする時間もなかった。私はその氏名記載を断った。それ以来、その担当者とは仕事していない。

……というような過去の出来事を思い出させるような事象があった。折しも、岸田がウクライナを訪問して「地元の名産品」である必勝しゃもじを贈ったというニュースがSNSのTLを席巻している頃だった。もう地面にめりこみそうになってしまった。

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