自転車の練習

前日に完成したバースデーベアを、チョカに渡した。結果からいうと、やっぱり全然響いてなかった。
生まれたときの体重と、ほぼ同等の身長をぬいぐるみにしたバースデーベアは、そもそも大人向けのもの(子供に必要ないという意味ではなく、大人により「響く」もの)だとは思っていた。それでも、これからのチョカの友達になってくれたらなあと思ってつくってみたんだけど……やっぱ造形がよくなかったかな。造形がよければ、あるいは手ざわりがよければ、ぬいぐるみとして気に入ってもらえたかもしれない。ああでも、「重っ」って言ってたから、やっぱり企画倒れだったのかも。

あともう一つ、このバースデーベアをつくったのは、チョカの親や祖父母を労いたい気持ちもあった。あの一瞬たりとも目を離せない、目を離したらすぐに「死」と隣り合わせになり得てしまうあの小さい命を、ここまで育ててきたことを労いたかった。
でも、チョカ母(私のきょうだい)に見せたら、こちらも同様に、あんまり響いてなかった。やっぱあれかな、感傷的になる余裕がある、非当事者の勝手な感傷だったのかな。それとも単純に、仕上がりが下手くそだったからなのかな。
ともかく、バースデーベア氏は今後も私と一緒に暮らすことが決まった。猫に食いちぎられないように仲良くやってこう。いつか金銭的に余裕ができたら、またつくるからね。金銭的に余裕ができる日が来るのかどうかわからんが……。

午後は、チョカ宅の犬に会うために移動。チョカは今、補助輪なしの自転車の練習をしているところだそうで、練習に同行してほしいという。大人として子供の自転車練習にどうあたるべきか、何をどのようにアドバイスすべきか(しないべきか)、予習してこなかったー。まあしょうがない、とぶっつけ本番で臨む。

チョカの場合、苦労しているのは「ペダルをこぐと、その足側に力がかかり、自転車が傾く」という点だった。私が思いつく限りでは、その解決策は「傾きそうになったら反対の足のペダルをこぐ」にあると考えた。ただ、それができたら苦労しないのはわかっている。少しずつ練習して慣れてコツをつかむしかない。

他方、つきそいの私が苦労したのは、「自転車をどのように押さえるか、どの時点で手を離すか」だった。
自転車の後ろ側にキャリアがなく、持ちやすいところがなかったので、泥よけを手で押さえるか、サドルの後ろ側を持つか。私は泥よけを押さえることを選んだのだけど、いかんせん泥よけ細いもんで、タイヤに指が巻き込まれないようにしつつ自転車が傾かないように押さえるのがけっこう大変だった。力を入れすぎるとチョカが走りにくくなる(これはあとで指摘を受けた)。

そんな2人で、自転車の練習を繰り返した。なかなかうまくいかない練習はイライラが募る。チョカも「もうやだ」と「もうちょっとがんばる」の間で揺れ動いていた。けど、「もうやだ」に振り切らないように自制しているのか、乗れるようになりたい一心なのか、諦めずに練習していた。そのがんばりに脱帽した。

その甲斐あって、もう少し、あとちょっとでいけそうなんだけど……というところまで進んだ。が、日が暮れそうな時間になったこと、私の喉が渇いたこと、私の腰が限界を迎えたことにより、今日の練習は終了となった。腰が限界だったのは、先日来の腰痛に、自転車を押さえる際の中腰姿勢がとどめをさした格好。申し訳ない。でも楽しかった。チョカの人生で1回しかない時間に存在できてよかった。

練習していたとき、チョカの同級生家族と遭遇したのだけど、私を見て「だれー?」と言っていた。ちょっと距離があったので、近寄って挨拶することもできず、さりとて遠くから大声で「こういう者ですー」と反応するわけにもいかず、今度会ったら説明しておいてくれとチョカに頼むしかなかった。
けど、あとから考えると、私のことを知らない同級生から見れば「すわ誘拐か」と警戒されても無理のないシチュエーションだった。同級生に安心してもらえるように行動したほうがよかったのかもしれない。チョカにも、「こういう危険があるから、(同級生)ちゃんが警戒していたのは大切なことだね」という話をした。

練習から帰るとき、渡る予定の横断歩道が赤になった。ここでチョカは、車用の信号が赤になったら横断歩道の信号が青になるよと教えてくれた。えっ、もうそれ知ってるの? 私、それを明確に意識したの、中学生か高校生のときだったよ(それ以前に聞いたのを、今の私が忘れているだけかもしれないが)。そんな早くから、そんな社会のメカニズムを知ってしまうの、すげーな。
ちょっと前に、横断歩道のどの地点に自分がいるかということと信号の「青点滅」の状況によって、すばやく渡るか渡らず止まるかを決めるというのは、チョカからすでに聞いていた。でもそれは、歩道の渡り方として学ぶシチュエーションは十分に想像できたから、知っているのもまったく不思議はなかった。でも車の信号については、本当に驚いた。
私は思っているよりもっとずっと早く、いろんなことを伝える準備をしておくべきかもしれない。

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