収支計算の埒外の活動を楽しむことについて

先週ネットプリントに出した日記ZINEの製本版、表紙をどうしようかなと考え、消しゴムはんこにすることにした。

ZINEのタイトル部分は、もともと手書き版で使っていた文字を採用した。「猫」「鼻」「息」はどれも穴が多く、また線の密集箇所も多いので、ちょっと難儀した。久しぶりの密な消しゴムはんこ、机に向かって首を下げていたらあっという間に首が痛くなり、途中からは消しゴムを持ち上げて空中で掘るような要領で進めた。

柄の部分は迷った末に、西森路代さんの『韓国ノワール その激情と成熟』の表紙をはんこにしてみることにした。今回のZINEでまとめた7月は、西森さんのご著書を読み、それをきっかけにいろいろな映画を見て、西森さんのオンラインイベントを見てと、この本を通じて得たものに支えられたところが大きい。その象徴としてもいい考えだな(自画自賛)と思ったのだった。

(支えられた割に日記でこのご本に全然ふれられなかったのは、それはそれだけで別エントリでまとめようと思っていたからで……「ちゃんと書こう」とすればするほどなかなか着手できない&時間がかかるあるある、よくないね〜)

背景の景色、赤い文字、『新しき世界』ジャソンのシルエットという3つの要素を3版にした。文字はそれほど細くないから、掘るのはそれほど難しくはない……難しくはないが、まあまあ手はかかる。でも、それこそが醍醐味であるわけで。消しゴムはんこってこうだったよね、という感覚を思い出した。これを仕事にできているひとがうらやましい。

はんこを掘ったあとは、はんこを押すことになる。絵柄部分の3個(3版)と文字部分の2個で、1枚あたり合計5つのはんこを押すことになる。絵柄部分は版の位置合わせも必要だ。これがけっこう大変だった。消しゴムはんこ、押すのこんなに大変だったか? と思ったけど、版を重ねるタイプのはんこはあんまりやったことがなかったのだった。
大変だったのは、手持ちのインクが押しづらいタイプだったのと、表紙の紙に凹凸があったことも影響していると思う。ポンポンとすぐにつくインクを使い、平らな紙を使えば、ここまで大変ではなかっただろうと思う。

途中から修業のような気持ちになりつつ、一方の頭では収支計算をしていた。この日記ZINEは安価で販売しているもので、この時間の人件費をまかなえるような価格設定にはなっていない。私はこの作業に何時間も費やしていていいのだろうか。銀行の残高を増やす活動に時間を充てるべきではないのか……?

でも、もともと「趣味」ってそういうものだった(ZINE制作が「趣味」かどうかはちょっと置いといて)。以前に私が消しゴムはんこをつくって楽しんでいた頃は、収支などはなから考えもせず、制作の過程を楽しみ、その成果物の仕上がりを楽しんでいたはずだ。それができなくなってしまったのだとしたら、それはただ私が貧しくなったのであって、その背景には社会の貧しさがある。私がこういうプロセスを楽しむことは間違ってなくて、楽しめない貧しさがあるのだとしたらそれは別の問題なんだ。

あと、さっきちょっと置いといたZINE制作が「趣味」かどうかの話でいうと、「趣味」でもあり仕事でもあり、非営利活動でもあり営利活動でもある。この活動を続けていくための「収支計算」は大事だけど、こういう活動をする意義、私が日記ZINEをつくっている意味は、『収支計算」の埒外に「も」あると思う。そういう意味でも、私が今日しているこの作業は、1個もむだじゃない。何も間違ってない。

端的にいうと、私は生きていくためにお金を稼ぐ必要はあるけれども、今日こうしてZINEをつくっていたのは楽しかったし、自分自身の生存のための抵抗の一環としてはしてよかったことだった。レベルはまったく違うけど、違いすぎておこがましいけど、武井武雄の刊本作品を思い出したりもした。

◆◆◆

リソグラフで印刷した本文のほうは、今回3色。当初は2色の予定だったのだけど、当日使えないインクの色があって、急遽変更したのだった。
3色も印刷するとなると版ズレが気になるところだけど、今回はそれほど「これはもうだめだ」となるようなものは少なく、歩留まりのよさに「リソグラフ慣れてきたぞ、しめしめ」と内心思っていた。

けど、いざ製本するにあたり全体をチェックしてみると、やっぱりまあまあ版ズレはあった。
A3の用紙に表裏印刷してA6版16ページにしているわけだけど、「表紙の文字は版ズレしているけど、中面はぴったり」な紙もあれば、その逆もある。同じ中面でも「○ページはズレているけど、△ページはうまくおさまっている」という紙もある。16ページすべてで版ズレがない紙はほとんどなかった。それはそうだよな。こういうものだ。それを前提に原稿をつくるべきだよな。うんうん。

それでも、その版ズレが明らかに許容範囲を超えるようなものも少なかった。確実に、慣れてきてはいると思う。版ズレよりもむしろ、紙に入るしわのほうがコントロールできなくてつらいかも。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です