映画を見た記録

配信で『HUNT』を見た。12/22に配信開始すると知ったときから、このときを楽しみに待っていた。「Amazonプライムビデオの有料レンタルは48時間だけど、U-NEXTはもしかしたらそれより長いのかな」という仮説を検証するべくU-NEXTでレンタルしたところ、72時間だった(すべてのレンタルが72時間かどうかはわからないが)。その72時間の最初のほうと最後のほうで、合計2回見た。以下、その感想(ストーリーへの言及があります)。

地面に生えている草(名前はわからない)。レンガの壁と地面のコンクリートの角から生えている列と、その少し下に並ぶように生えている列と、2列が並んでいる。

◆なんといういか、見事。
1983年の韓国の体制側にイ・ジョンジェとチョン・ウソンが配役される意味、こちらの先入観がくつがえされる描写の数々、銃を突き付け合うポスターの画……それらの要素が、スパイを探すというストーリーと見事に絡んで、もう、実に見事だった。

私は『パラサイト』を見たとき、むだがまったくない映画だと思った。髪の毛1本まで意志が通っており、その意志に1個もむだがない。空気の粒まですべてが精密につくりこまれたような、こんな意志の行き届いた映画をひとはつくり出すことができるんだ、と心底驚いた。

『HUNT』はそれに近い感覚があった。『パラサイト』が繊細なガラス作品だとしたら、『HUNT』は何色で燃えるのかきちんと計算されつくした炎のように思えた。これが初監督作品というのが本当にすごい。

カメオ出演が豪華だな……と思う東京のシーン。単に眼福であるだけでなく、「この中にスパイがいるのか?」と思わせるストーリー展開にちゃんと利いてくる。
と思っていたらファン・ジョンミン! ひとめで「あれ、ファン・ジョンミンじゃない?」→「やっぱりファン・ジョンミンだ!」となるあの表情。顔の表情だけでなく、そのたたずまい全体が物語るファン・ジョンミン感がすごい。

◆舞台は1983年。1987年に民主化が実現するまで4年ある。生き残ったピョンホは、ここからの4年をどう生きるのだろう……と思っていた。ら、あのラスト。あのラストは、ピョンホにとってはある種の幸いだったのだろうか。それとも、最後までやりとげる意志なかばでの心残りのものだったのだろうか。

◆北朝鮮からの亡命を希望した所長、チョ・ウォンシク(イ・ソンミン)、キム・ジョンド(チョン・ウソン)……ひとが命を奪われたとき、そのあとに子供が映るのが印象に残った。単純に、当時は子供をもつひとが多かったということかもしれない。あるいは、強力な体制の前に命を奪われる弱き存在とその家族、という構図かもしれない。

ただ私には、あの子供たちが、殺された親の意志や執念をひきずって生きていく、独裁が生み出す禍根の象徴のように思えた。あの子供たちはこれから何をどう思って生きていくのか。どうしても、パレスチナの子供(あるいはイスラエルの子供)に重ねて見てしまうところがあった。

パク・ピョンホ(イ・ジョンジェ)には子供はいない、というのも偶然ではないように思える。目的のために「家族をもたない」という選択をしたという描写なのかもしれないし、ジョンドとは逆のキャラクター造形ということなのかもしれないし、チョ・ユジョン(コ・ユンジョン)が子供のような存在ということなのかもしれないが。パン・ジュギョン(チョン・ヘジン)はどうだったんだろう。家族はいたのだろうか。汚名を着せられることになったチャン・チョルソン(ホ・ソンテ)はどうだったのか。

◆2023年7月8日の日本の出来事と重ねて見てしまうところがあった。
韓国は、全斗煥を逮捕できた。
でも政権を終わらせるまでに、あれから4年かかった。1980年から数えれば7年かかった。

もし暗殺が成功していたら、あのまま北朝鮮の占領がなってしまったら、韓国の人びとはどうなっていたんだろう。ピョンホが懸念したように、戦火で命を落としていたかもしれないし、もっとひどい状態に陥っていたかもしれない。
でも、暗殺が失敗に終わり、先の見えない独裁政権のなかで4年を過ごした市民のことも、どうしても考えてしまう。

◆韓国はこの歴史を描くことができる。エンタメとして、でもひとの心に確実にくさびを打ち込むものとして。
日本だって戦前・戦中・戦後を描いた作品自体は少なくないはずなのに、何が違うのだろう……と考えると、「民主主義の獲得を経てないから」という指摘が実感を伴うように感じる。政治はどんどんひどくなり、民主主義の獲得からは遠ざかる一方の日本では、あのような作品は到底望めないということか(『窓ぎわのトットちゃん』『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はまたちょっと趣が違うようだけど)。

◆1回目を見終わったあと、興奮さめやらず、『工作 黒金星と呼ばれた男』を見た。何度見てもチュ・ジフンは憎たらしいし、ラストシーンは『愛の不時着』じゃんかと思うし、もう最高なのだった。

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